ホルンのマウスピース
金管楽器奏者にとってマウスピースは楽器を演奏するための最も大切な道具です。
唇の形や歯並び、体力など十人十色でこればかりは本人が自分の唇や体に一番合ったマウスピースを探すしかありません。
また、演奏経験とともに求めるマウスピースは変化していくものです。私も40年以上ホルンを吹いてきましたが、これまでに手に入れたマウスピースは10本を超えています。
そこで、せっかく長年試行錯誤を続けてきたわけですから、その経験をもとにマウスピースの選び方をまとめてみました。
1.最も大切なことは自分に合った「リム」を見つけること。
リム
マウスピースで間違いなく最も大切なのがこの部分です。
リムは唇に直接当てて、音を出すために振動させる唇をサポートします。
リムには、「リム内径」「リム厚さ」「リムカンター」「リムバイト」という4つの要素があります。
リム内径
リムの内径は振動する唇の幅を決めます。
内径が小さくなれば唇の振動幅が小さくなりハイトーンの演奏が比較的楽になりますが、発音体が小さくなる分、音量も小さくなります。逆に大きいほど低音域が出しやすくなり、音量も大きくなります。
リム厚さ
リムの厚さは吹きやすさに大きな影響を与えます。
リムが薄いと、唇とマウスピースの接地面の摩擦が少ないので、音域の変化に対応しやすく吹きやすさを感じるのですが、押し付けて吹くと唇が痛くなったり疲れやすくなりますし、当然ハイトーンも出しづらくなります。またロングトーンの安定性などコントロール面も難しくなります。
逆にリムが厚いと、唇にぺったりとくっつく感じで、ちょっと圧力をかければハイトーンが出しやすかったり、音の安定性も増しますが、摩擦が大きいので早いパッセージの演奏や音の跳躍などは不自由になります。
私の場合、薄いリムを使用することで、押し付けて高音を出す悪い癖を数年かけて修正することができました。
リムカンター・リムバイト
リムカンターとはリム面の平坦さや丸みの形状のことで、リムバイトとはリムとカップのかどの形状(角度・丸み)のことです。
どちらの要素とも、発音(アタック)の明確さや音(音程)の安定感に大きく影響します。
一般的には、平坦なリムカンターでリムバイトもシャープな方が発音が明確で音も安定します。
ただ、リムバイトがあまりシャープすぎると唇がひっかかるような感じになり音の跳躍に対応しにくくなります。
一方、丸みのあるリムカンター・リムバイトはホルン特有の滑らかな演奏や音の跳躍には有利です。
リム選びでは、「リム内径」「リム厚さ」の数字に捉われやすいのですが、実は、同じ数字の内径や厚さのマウスピースでも、リムカンターやリムバイトの形状がメーカーによってかなり違いがあるので、自分の楽器に適合して、かつ自分の唇に合うメーカーを見つけることが大切です。
マウスピース選びは、まずは自分に一番合ったリムを選ぶことから始まりますが、以上の4つの要素「リム内径」「リム厚さ」「リムカンター」「リムバイト」を考えながら、マウスピースだけで音を出してみて、音の出しやすさ、音域の変化のしやすさ、アタックのしやすさなどを確認してみると良いと思います。
なぜならば、楽器をつけるとどのマウスピースでも一応音が出せるので違いが分かりにくくなるのです。
2.リムが決まったら次は、カップの深さや形状とボア(スロート)の直径を考える。
カップの深さや形状とボア(スロート)の直径よって、音色、高音・低音の出しやすさ、音量などが違ってきます。
カップ
ホルンの場合、カップの形状は3種類あります。
「Uカップ」「Vカップ」「ダブルカップ(UカップとVカップの組合せ)」です。
Uカップは明るい音色でハイトーンが出しやすく、Vカップは暗めの音色で低音域が楽になると言われています。
ダブルカップは高音・低音の双方を出しやすくするために考えられた形状です。
これに、カップの深さが要素として加わってくるわけですが、当然に浅いカップは明るい音色でハイトーンが出しやすく、しかし音量が小さくなる。逆に深いほど暗めの音色で低音域が楽になり音量も豊かになります。
ボア(スロート)
ボアはマウスピースの息の通り道で一番狭くなるところです。
吹き込んだ息がここで適度な抵抗を受けることでイメージとしては「音が確立される」と感じられます。
川幅が狭くなると川の流れが速くなるように、細いボアは空気の流れが速くなるので明るい音色でハイトーンも出しやすくなります。逆に太いボアでは暗めの音色で大きな音量に向いています。
ただ、注意しなくてはならないのは、この音の変化はあくまで十分な「息」を使って演奏ができるようになってからの効果であって、例えば息の量や圧力の少ない初心者の人が豊かな音量で低音を出したいからと、深いVカップでボアの径も大きなマウスピースを選んでも、そのマウスピースを鳴らすだけの「息」がありませんから、響きのないとっても貧弱な音になってしまいます。
3.マウスピースのその他の要素としてバックボアとシャンクがある。
バックボア
バックボアは、ボアからマウスピースの先までの息の通り道のことで、この直径やテーパーによって音の抵抗感に影響を与えます。まあ、様々なマウスピースメーカーのバックボアは、カップやボアの形状とのバランスで設計されていますから、マウスピース選びでここまで気にする必要はないと思います。
シャンク
これは、忘れてはならない大切な要素です。
シャンクとはホルン本体にマウスピースを差し込んだ時の接点になりますから、そのテーパーの形状が適合していないとぐらついてしまいます。
シャンクには、「アメリカンシャンク」と「ヨーロピアンシャンク」がありますが、アメリカンシャンクの代表的なメーカーは、ホルトン、シルキー、バック、コーン、ヤマハなどで、シャンクのテーパーがきつく(5/100)なっています。ヨーロピアンシャンクの代表的なメーカーは、アレキサンダー、ティルツ、シュミット、パックスマンなどで、シャンクのテーパーが緩やか(3/100)になっています。
なお、最近のヤマハの楽器はダブルシャンクと言って、管の中で2つの角度に分かれていて、どちらのタイプのマウスピースでも固定できるようになっているそうです。
この写真は、ブログで一度紹介しましたが、私がここ数年大変気に入って使用してきた、ストークというメーカーのマウスピースです。
現在は、この内のCM12を使用しています。
こちらの記事をご覧ください
ストークのマウスピースについて
こちらは、私がこれまで使ってきたマウスピースです。
左から
アレキサンダーの6番、8番
ヤマハの29D、30D、33D4、32
ホルトンバリータックウェルモデル
その他にも、アレキサンダーの5番、8F番やホルトンのMC、XDCなどを持っていましたが、人にあげたりなくしたりしました。
おそらく、大なり小なり、多くのホルンプレイヤーはこれくらいの遍歴を重ねながら、気に入ったマウスピースにめぐり合うのではないでしょうか。
ホルンマウスピース